行政書士業務のうち、入管業務等の国際業務については興味があるが、英語力がないからと諦める方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、実際には国際業務を取り扱っている行政書士の中には、全くではないにしろほとんど英語が話せない方が沢山いらっしゃいます。
そこで、今回は在留資格申請をはじめとする入管業務等の国際業務ついてどのくらい英語での対応が求めらるのかといったことについてご紹介致します。
行政書士の英語対応が必要な業務とは
入管業務などの国際業務を行うには英語が話せる方が良いのかという質問をよく見かけますが、結論を先に言えば、話せなくても問題なしです。
しかし、私個人の意見としては英語は話せた方が良いと考えています。
理由についてお話する前に、そもそも行政書士業務で英語対応が求められる国際業務とは具体的にどんな業務なのでしょう。
日本行政書士会連合会では国際業務について以下のように紹介されています。
地方入国管理局長に届出を行った取次申請行政書士が行う出入国管理及び難民認定法に規定する申請に関し、申請書、資料及び書類の提出並びに書類の提示を行う業務
日本行政書士会連合会HP「行政書士業務」より引用
申請取次行政書士とは、出入国管理に関する一定の研修を修了した行政書士で、申請人に代わって申請書等を提出することが認められた行政書士のことです。
申請取次行政書士に申請を依頼すると、申請人本人は、出入国在留管理局への出頭が免除されます。
【行政書士が作成できる申請書の種類】
①在留資格認定証明書交付申請(招聘手続)
②在留期間更新許可申請
③在留資格変更許可申請
④永住許可申請
⑤再入国許可申請(海外旅行・一時帰国等)
⑥資格外活動許可申請(学生アルバイト等)
⑦就労資格証明書交付申請(転職等)
日本にはどのくらいの在留外国人がいるのか

次に我が国日本にはどのくらい外国籍の方が在留しているのか、ご紹介します。
出入国在留管理庁の令和4年のプレスリリース「令和3年末現在における在留外国人数について」では、令和3年末現在に日本に在留している外国人の数は、中長期在留者数は246万4,219人、特別永住者数は29万6,416人で、これらを合わせた人数は376万635人と公表されています。
そして、上位10カ国の在留外国人の国籍は以下の通りです。
国 | 人数 | 前年比 |
中国 | 716,606人 | -7.9% |
ベトナム | 432,934人 | -3.4% |
韓国 | 409,855人 | -4.0% |
フィリピン | 276,615人 | -1.1% |
ブラジル | 204,879人 | -1.8% |
ネパール | 97,109人 | +1.2% |
インドネシア | 59,820人 | -10.5% |
米国 | 54,162人 | -2.9% |
台湾 | 51,191人 | -8.4% |
タイ | 50,324人 | -5.7% |
続いて、在留資格別の内訳は以下の通りです
資格 | 人数 | 前年比 |
永住者 | 831,157人 | +2.9% |
特別永住者 | 296,416人 | -2.6% |
技能実習 | 276,123人 | -27.0% |
技術・人文知識・国際業務 | 274,740人 | -3.0% |
留学 | 207,830人 | -26.0% |
令和3年度はコロナの影響もあって一時的に減少こそすれ、ここ10年はずっと増加傾向にありました。
表の通り、減少幅が大きいのが技能実習生と留学生ですが、それ以外の在留資格では大きな変動はないようです。
そして、在留外国人の数は10年前の平成23年当時と比べると70万人以上も増加しています。
これらのこととアフターコロナを見据えて、今後も日本に入国する外国人の数は益々増えると予想しています。
ただ、表から分かるように在留しているのは英語圏以外の外国人がほとんどです。
とすると、必ずしも英語が必要ではく、むしろ韓国語や中国語を話せるほうが役に立つように思われます。
確かに中国語や韓国語を話せれば、仕事の幅は広がるに違いありません。
しかし、もともと話せる人は別にして、これから行政書士業務のためだけに一から中国語や韓国語の勉強を始めるのは現実的とはいえません。
そこへいくと、英語であれば私たちは中学校から学び始めるので、基礎的な知識は既に付いています。今は小学校で教えるところもあるくらいですので、話せる話せないは別にしてもかなり長い期間勉強していることになります。
つまり、他の言語と比べると英語の方が、早く話せるようになる可能性が高いと言えます。
入管業務は地域によって需要が異なる

入管業務は地域によって需要がかなり違います。
以下は、在留外国人が多い地域です。
都道府県 | 人数 | 前年比 |
東京都 | 531,131人 | -5.2% |
愛知県 | 265,199人 | -3.1% |
大阪府 | 246,157人 | -3.0% |
神奈川県 | 227,511人 | -2.1% |
埼玉県 | 197,110人 | -0.5% |
東京や大阪などのように大きな都市では外国人が多いため、国際業務の需要はあるのは予想できます。
では、地方ではどうなのでしょうか?
国際業務に関しては他の業務にも増して地域性があり、在留外国人がいない地域では当然ながら仕事はありません。
やりたい業務 ≠ 需要がある業務 なのです。
ちなみに私が開業しているの地域は上のどれにも当てはまりませんが、入管業務をメイン業務とする行政書士はそれほど珍しくありません。
とはいえ、英語を母国語とする外国籍の方の業務を取り扱うことはほとんどありません。
だとすると、なおのこと英語は必要ないと思われそうですが、私個人の意見としてはやはり英語力はあった方が良いと考えています。
私が今までサポートさせて頂いた方の国籍は、フィリピン、スリランカ、ミャンマー、インドの方々で、どの方も日本語は片言で、中にはほとんど話せない方もいました。
一方、英語は英語圏で生活するのに困らない程度に話せるようでした。
日本に住んでいる外国籍の方の全ての言語を話せなくとも、せめて英語が話せればそれなりのコミュニケーションはとれるはずです。
入管業務を依頼するご本人にとっては、手続きや申請についてあいまいな説明より出来る限り納得できる説明をしてほしいに違いありません。
外国籍の方のご相談を受けるにつけ、もう少し流暢に話せたらな、と思わされます。
ところで、私は英語が全く話せないというわけではありません。
若い頃は英語圏の国に数か月滞在した経験もありますし、海外旅行をライフワークとしていたこともあり、多くの田舎の人がそうであるように英語に拒絶反応が起こるなんてこともありません。
しかし、何年も英語から遠ざかった生活をしていると、偶然英語を話す機会があっても言葉が全く出てこないのには自分でも呆れるほどです。
これから、国際業務でバリバリ仕事をしたい方で英語がいまいちであったり、私のように遠ざかってしまっていたりする方は、改めて英語の勉強をしてもいいのかな?と思います。
まとめ
行政書士業務のうち、入管業務等の国際業務を行うには英語力は必須ではありません。
日本に在留する外国人のうち、英語圏の人の数は決して多くはありません。
また、国際業務については地域性があり、需要があまりない地域もあります。
仮に需要がある地域でも在留外国人の国籍によっては、他の言語の方が役に立つこと場合もあります。
しかし、やはり英語は国際語であり、英語を母国語としない在留外国人の多くが英語が話せるというのも事実です。
入管業務を行う上で、行政書士の英語対応は必須ではありませんが、話せるに越したことはないでしょう。