行政書士試験において民法は行政法に次いで、出題数が多く重要度も高い科目です。
その条文は1,000以上あり、範囲がとても広く、民法が覚えられないと苦労する受験生が多いのが現状です。
しかし、この科目の攻略なくして行政書士試験の合格は果たせません。
そこで、今回は民法の勉強方法についてご紹介したいと思います。
民法の学習は行政法より時間がかかる?

民法は「総則」、「物権」、「債権」のほか、「家族法」である親族・相続から出題されます。
行政法に次いで出題数が多く、択一式で9問(配点3点)、記述式で2問(配点40点)出題され、法令科目出題数全体の30%を占め、ともて重要な科目です。
冒頭でも触れましたが、民法の条文は1,000以上です。全ての条文が出題対象とされているわけではありませんが、学習にはかなり時間を要することが予想されます。
民法の問題は複雑で覚えるのが大変であることから、むしろ行政法より時間を取られることになるかもしれません。
基本的な学習方法は他の法令科目と同じで過去問や演習問題を解くことですが、単に覚えるのではなく理解するまで繰り返し解くことがとても重要です。
民法は覚えるだけでなく理解する

民法は、条文を覚えただけでは正解できない問題が多いです。
例えば、公式を覚えたのに数学の応用問題が解けない、単語を暗記したのに英語の長文読解問題が解けない、そんな感覚に似ています。
皆さん、そのような感覚をおぼえた経験はないでしょうか?

もちろん、ありますよ。解けないときは先に解答をみちゃいます。

私もそうです。暗記しただけではすぐに応用できるわけではないんでよね。
このように民法の問題も暗記しただけでは解けないことが多いです。
民法の条文は混乱するものがとても多い上に問題は長文、しかも登場人物が多いため、正解にたどり着くには重要項目の暗記だでなく読解力も求められます。
混乱しやすい例としては、以下のものが挙げられます。
【混乱しやすい項目の例】
・制限行為能力者の保護者の権利
・占有訴権
・条件の種類と効果
・消滅時効の起算点
・177条の対抗関係
・連帯債務と連帯飛保証
・債権者代位権と債権者取消権(詐害行為取消権)
この他にも、まだまだ混乱しやすい項目がありますので、きちんと整理しておくことをおすすめします。
民法で覚えられない項目は表や図で覚える
民法で混乱しやすい項目については、表などにして整理しておくと良いでしょう。
以下に、私が混乱しやすい項目を表のにしたものの一例をご紹介します。
【第三者保護一覧】 | ||||
法律効果 | 悪意の第三者 | 善意の第三者 | 善意・無過失の第三者 | |
通謀虚偽表示 | 無効 | 保護されない | 保護される | 保護される |
心裡留保 | 無効(善意) | 保護されない | 保護される | 保護される |
錯誤 | 無効(重過失でない) | 保護されない | 保護される | 保護される |
詐欺 | 取消し | 保護されない | 保護されない | 保護される |
脅迫 | 取消し | 保護されない | 保護されない | 保護されない |
公序良俗違反 | 無効 | 保護されない | 保護されない | 保護されない |
制限行為行為能力者 | 取消し | 保護されない | 保護される | 保護される |
【債権別消滅時効の起算点と履行遅滞の起算点一覧】 | ||
消滅時効の起算点 | 履行遅滞の起算点 | |
確定期日のある債権 |
主観:確定期限の時 |
確定期限の時 |
不確定期日のある債権 | 主観:確定期限の到来を知った時 客観:確定期限の時 |
期限の到来を知った時又は到来期後履行の請求を受けた時 |
期限の定めの債権 | 主観:債権発生を知った時 客観:債権発生の時 |
履行の請求を受けた時 |
停止条件付債権 | 主観:条件の成就を知った時 客観:条件が成就した時 |
条件成就後履行の請求を受けた時 |
不法行為による損害賠償 | 損害と加害者を知った時かつ不法行為の時 | 不法行為の時 |
債務不履行による損害賠償 | 主観:損害賠償を請求できることを知った時 客観:損害賠償を請求できる時 |
履行の請求を受けた時 |
不当利得返還請求権 | 主観:債権発生を知った時 客観:債権発生の時 |
悪意:催告を受けた時 善意:受益を受けた時 |
このように混乱しやすい項目を表にしておけば、いちいちテキストから該当箇所を探す手間が省けます。
常に携帯し、ちょっとしたスキマの時間で一覧を確認したり、問題の解説を読みながら、横に置いて確認するといった作業を繰り返しながら学習を進めていくと良いと思います。
登場人物が多い問題などでは、余白に関連図のようなもの書いて整理すると問題の内容が整理できます。
というのも、人は文章で読むより目で見る方が理解しやすい傾向にあるからです。
関連図は、①誰が、②誰に、③いつ、④なにを、⑤どのようにしたかを意識して作成すると良いでしょう。
❝試験の時にこんなことしている暇はない!❞と感じる方もいるかと思います。
最初のうちは時間がかかるかもしれませんが、慣れてくるとそれほど時間はかかりませんし、むしろこのひと手間で解答時間の短縮につながります。
さらに慣れてくるとわざわざ書かなくても、頭の中で関連図が書けるようになりますので、是非試してみて下さい。
実際に民法の問題を解いてみよう!
以下に、私が受験した平成30年の試験問題の中なら民法の問題を一つご紹介します。
【問題28】 A・B間で締結された契約(以下「本件契約」という。)に附款がある場合に関する次のア~オの記述のうち、民法の規定および判例に照らし、妥当なものの組合せはどれか? ア 本契約に、経済情勢に一定の変動があったときには当該契約は効力を失う旨の条項が定められている場合、効 力の喪失時期は当該変動の発生時期が原則であるが、A・Bの合意により、効力の喪失時期を契約時に遡らせることも可能である。 イ 本契約が売買契約であり、買主Bが品質良好と認めた場合には代金を支払うとする旨の条項が定められている場合、この条項はその条件の成就が代金債務者であるBの意思のみに係る随意条件であるから無効である。 ウ 本件契約が和解契約であり、Bは一定の行為をしないこと、もしBが当該禁止行為をした場合にはAに対して違約金を支払う旨の条項が定められている場合、Aが、第三者Cを介してBの禁止行為を誘発したときであっても、BはAに対して違約金支払の義務を負う。 エ 本件契約が農地の売買契約であり、所有権移転に必要な行政の許可を得られたときに効力を生じる旨の条項が定められている場合において、売主Aが当該許可を得ることを故意に妨げたときであっても、条件が成就したものとみなされることはない。 オ 本件契約が金銭消費貸借契約であり、借主Bが将来社会的に成功を収めた場合に返済する旨の条項(いわゆる出世払い約款)が定められている場合、この条項は停止条件を定めたものであるから、Bは社会的な成功を収めない限り返済義務を負うものではない。 |
選択肢アについては、民法127条2項 ❝当事者が条件が成就した場合の効果をその成就した時以前にさかのぼらせる意思を表示したときは、その意思に従う。❞ により正解。
選択肢イについては、民法134条 ❝停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。❞ より一見正解のようにも思えますが、判例では ❝鉱業権の売買契約において、買主が排水探鉱の結果品質良好と認めたときは代金を支払い、品質不良と認めたときは代金を支払わない旨を約しても、右売買契約は、民法第一三四条にいわゆる条件が単に債務者の意思のみにかかる停止条件附法律行為とはいえない。❞(最判昭和31年4月6日)より誤り。
ウの選択肢については、民法130条2項 ❝条件が成就することによって利益を受ける当事者が不正にその条件を成就させたときは、相手方は、その条件が成就しなかったものとみなすことができる。❞より不正解
エの選択肢については、売主が許可を得ることを妨げているため、一見不正解のようにも思われますが、判例 ❝農地の売主が故意に知事の許可を得ることを妨げたとしても、買主は条件を成就したものとみなすことはできない。❞(最判昭和36年5月26日)より誤り。
オの選択肢については、判例が裁判所のデータベースにないためご紹介出来ませんが、結論は「出世払いは期限であり条件ではない」とされているため、誤り。
ということで、正解は2でした。
問題28は、残念ながら私も正解出来なかった問題で、難問とされていますが、落ち着いて考えれば全てが分からなくても正解を導けた問題でした。
最初の選択肢アについては正解出来た方が多いと思います。アの選択肢がある組合せは1か2です。
このように、民法は条文の暗記だけでは正解出来ないことが多いですし、最近は組合せの問題が増えていますので、一筋縄ではいかない出題構成となっています。
なお、解答解説については私個人が条文と判例から導きだしたものであるため、内容を保証するものではないことをご承知下さい。
過去問は10年、演習問題は出来る限り多くの問題を解く!
過去問は最低でも10年分解くことをおすすめします。
そのほか、可能な限り多くの演習問題を解きましょう。多くの問題を解くことで条文や判例に触れる機会が多くなるだけなく、民法に必要な思考力も養われます。
民法の学習もやはり、インプットよりアウトプットに重点を置く方法を推奨しており、条文や判例を覚えるには、問題を解くことが最善と考えられます。
先に私がご紹介した問題の解説は、簡単でしたが、問題集等を選ぶときにはさらに解説が丁寧なものを選ぶようにしましょう。
また、忘れてならないのは法改正に対応しているかを確認することです。
民法の記述式はどう対応する?
民法の記述式対策については、別記事で詳しくご紹介していますので、是非参考にしてみて下さい。
記述式に関しては、択一式と異なり、同じ問題が出題されることはありません。
しかし、過去問を解くことは記述の練習にもなりますので、一通り解くようにしましょう。
記述式の学習方法は、択一式と異なり、こちらは書いて覚えることをすすめしています。
そして、1問でも良いので毎日解く習慣をつけるとよいでしょう。
まとめ
民法は行政法に次いで重要な科目であり、民法なくして行政書士試験に合格することは不可能です。
人によっては行政法より時間を要することになるかもしれない民法は、暗記だけでなく思考力もと問われる科目です。
民法も、やはり他の法令科目と同様、問題を解くことに重点を置くべきです。
問題集を選ぶときは条文や判例が紹介されているのは必須ですが、さらに一歩踏み込んだ丁寧な解説があるものを選ぶようにしましょう。