特定行政書士 考査とは?行政書士試験との違い、対策や勉強法について

行政書士資格

行政書士以外で、「特定行政書士」という資格をご存じの方は少ないのではないでしょうか。

特定行政書士は、行政書士が取得できる内部資格のひとつで、平成27年から始まった新しい資格のことです。

まだご存じのない方も多いので、今回は特定行政書士をご紹介致したいと思います。

特定行政書士ってどんな資格?普通の行政書士との違いは?

平成26年の行政書士法の改正(平成26年12月27日施行)によって誕生した資格です。

特定行政書士は、行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成することができます。

これまで行政不服審査法に基づく行政不服審査手続きは、弁護士しか行えませんでした。

行政書士に許認可申請を依頼しても、審査結果に不服があるときは弁護士というのでは、依頼人にとっては、決して利便性がいいとはいえませんでした。

このような背景から、依頼人から審査請求も一貫して是非行政書士にお願いしたいとの声を受けて行政書士法の改正に至りました。

注意点は、不服申立て等ができるのは行政書士が作成したものに限られている点です。

本人が申請したものについて、その後、不服申立てだけを特定行政書士がおこなうことはできません。

ただし、申請を行う行政書士は、特定行政書士でなくてもよく、他の行政書士が行った申請であればよいとされています。

特定行政書士はこんなシーンで活躍できる!

特定行政書士が行える「官公署に提出する書類に係る許認可等に関する行政庁への不服申立て手続きの代理業務」は、全ての許認可が該当するわけではありません。

例えば、以下の「難民不認定」に対する不服申立て

 申請者は、本国において民主化運動指導者らと社会活動を行い、本邦においても反本国政府団体に加入し活動を行っていることなどから、帰国すれば本国政府による迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったが、申請者の供述を前提としてもデモ参加程度にとどまり、難民条約上の迫害のおそれがあるとは認められないとして不認定となった。申請者はこれを不服として異議申立てを行うことが考えられる。

日本行政書士連合会「令和3年度特定行政書士 ㏚ポスター」より引用

例えば、建設業許可申請の不許可処分に対する不服申立て

建設業許可申請を行ったところ、経営業務の管理責任者としての経験年数が要件を満たしていないこと、経営業務の管理責任者の常勤性に疑義があることを理由に不許可となった。 経営業務管理責任者としての経験年数や常勤性について、その判断を見直す余地がある場合に不服申立てをすることが考えられる。

日本行政書士連合会「令和3年度特定行政書士 ㏚ポスター」より引用

例えば、産業廃棄物処理施設の設置許可申請の不許可に対する不服申立て

産業廃棄物処理施設の設置許可申請を行ったところ、不許可処分となった。申請先の自治体においては、条例により周辺住民の同意書の提出が許可要件となっていて、その要件を満たしていないことが理由とのことだったが、周辺住民の同意書の提出を許可要件としていることに疑義がある場合に、不服申立てすることが考えられる。

日本行政書士連合会「令和3年度特定行政書士 ㏚ポスター」より引用

不服申立てはこれらの不許可等に対するものだけでなく、何もしない(不作為)のときも出来きます。

難しく感じるかもしれませんが、要は「もう一度審査し直して!」、「早くちゃんと審査して!」と訴える手続きなのです。

特定行政書士になるには?

行政書士が一定の研修を受け、考査という試験のようなものに合格する必要があります。

研修は毎年1回都道府県ごとに行われ、研修費用は8万円と、かなり高額です。

2021年度の公募要項を例に研修・考査については以下の通りです。

[申込期間]2021年4月1日[木]〜6月18日[金]
[受講期間]2021年8月初旬〜9月中旬
[考 査 日]2021年10月17日[日]

従来研修は各都道府県が指定した会場で受講していましたが、コロナ禍の現在はWeb受講に変更されています。

講義科目は以下の通りです。

科 目 時間(コマ数)
行政法総論 1時間(1コマ)
行政手続制度概説 1時間(1コマ)
行政手続法の論点 2時間(2コマ)
行政不服審査制度概説 2時間(2コマ)
行政不服審査制度の論点 2時間(2コマ)
行政事件訴訟法の論点 2時間(2コマ)
要件事実・事実認定論 4時間(4コマ)
特定行政書士の倫理 2時間(2コマ)
総まとめ 2時間(2コマ)


研修に使用するテキストは3冊で、以下の画像は私が2019年に受講した時のものです。

考査の時間は2時間で、出題数30問の4肢択一形式です。

《科目別出題数》
科  目 出 題 数
行政法総論 4科目の中から20問
行政手続法
行政不服審査法
行政事件訴訟法
要件事実・事実認定論 2科目の中から10問
特定行政書士の倫理(複合問題を含む)

合格基準については、行政書試験のようにはっきりと決まっていませんが、例年6割程度と言われています。

従って、全出題数30問のうち、18問以上を正解する必要があります。

結果については、後日(考査から2か月後くらい)郵送で通知されますが、点数などは記載されていません。

特定行政書士の合格率は高い

合格率については、制度が始まってからほぼ平均70%弱で推移しています。

《年度別合格率》
年度 受験者数 修了者数 合格率
令和3年度 575名 390名 67.8%
令和2年度 386名 263名 68.1%
令和元年度 437名 312名 71.4%
平成30年度 467名 319名 68.3%
令和29年度 617名 399名 64.7%
令和28年度 1,173名 766名 65.3%
令和27年度 3,517名 2,428名 69.04%
(行政書士会員サイト公表資料より作成)
受験者
受験者

初年度こそ受験者は多いですが、その後は一気に減りましたね。

ちょこ
ちょこ

行政書士の悲願ともされる行政法の改正で初年度は期待も大きかったからでしょうね。

特定行政書士の考査は、行政書士試験を受験して間もない方が有利と言われています。出題の大半が本試験問題とほぼ同様の内容となっているからです。

本試験から何年も経過している場合は、学習し直しする必要が出てきます。

また、平成18年から行政書士の試験科目に変更があったことから、これ以前の合格者も不利とされています。

改正後にあって改正前にない項目としては、「行政法の一般的な法理論」と「「行政事件訴訟法」です。

つまり、平成18年以前に合格した行政書士は特定行政書士考査のため、これらを一から学習する必要があります。

加えて、行政書士登録者の中で試験免除されている元公務員の方たちは、そもそも試験勉強をしていません。

これらの行政書士の方々の多くは、受験をしないとのではないかと考えられます。

つまり、研修に申込をする行政書士は、本試験後あまり年数が経過しておらず、合格の可能性が高い者が大半を占めていると思われます。

それでも3割強の方は、不合格となるのですから、やはりしっかり準備して考査に臨むのがよいでしょう。

特定行政書士の勉強法・考査対策どうする?

特定行政書士の資格取得を検討する方は、勉強法について悩まれると思います。

現在、通常の資格取得のような講座は特にないため、恐らくこれまで行政書士で学習してきた教材や問題集を使用していて学習する方がほとんどでしょう。

中には合格率が高いからと安心して事前に準備せず受験する方もいますが、油断していると不名誉な結果となりかねません。

特定行政書士の考査は合格率7割弱ですが、裏を返せば3割強が不合格となる資格なのです。

そこで、考査の学習についてご紹介いたします。

特定行政書士の考査は、行政書士試験の試験科目からは行政法からしか出題されません。

本試験で使用した教材や問題集が残っていれば、それを利用するのが良いと思います。

恐らく考査で初めて受験することになる「要件事実・事実認定論」、「特定行政書士の倫理」については、過去の考査問題で十分と考えます。

過去の考査問題を手に入れる方法は、特定行政書士を受験した経験がある先輩行政書士に聞いてお借りするのがよいでしょう。

どうしても手に入らない場合は、ネットで検索してみて下さい。解答などを販売している方もいますので、手に入るもしれません。

本試験の教材や問題集を処分してしまった方は、行政書士試験用のアプリの利用を検討してみてはいかがでしょうか?

資格の大原が提供しているアプリは、科目ごとに購入できるシステムとなっていますので、特定行政書士対策にはおすすめのアプリです。

結局、特定行政書士資格は必要か?不要か?

結論から言えば、❝特定行政書士の資格はあってもなくてもいい!❞です。

受験者
受験者

どういうことでしょうか?

ちょこ
ちょこ

普段の業務は特定行政書士でなくても出来るからです。敢えてメリットを挙げるとすれば、行政書士の前に「特定」とつくとカッコいい!とうことくらいです。

不服申立てに関する代理が必要となる業務は、行政書士業務のうち「官公署に提出する書類の作成とその代理」です。

相続手続きなどの民事をメインに取り扱う行政書士では、不服申立て自体が登場する場面はありません。

従って、行政書士業務の中でも、どの業務を扱うかによって特定行政書士の必要性は異なります。

行政書士会は特定行政書士の取得を推奨していますが、研修費用は結構高額なのに、業務上不要とあっては、取得をおすすめするには疑問が残ります。

さらに、実際にこの資格を有している行政書士のうち、どのくらいの方がその資格で業務をした経験があるか?についても不明です。

不服申立てをするくらいなら、再申請の方が。。。と思うのは私だけでしょうか?

まとめ

特定行政書士は、平成26年の行政法改正によって誕生した新しい資格です。

これにより、これまで弁護士しか行えなかった不服申立ての代理業務を特定行政書士が出来るようになりました。

特定行政書士の資格は、誰でも取得できるわけではなく、行政書士が一定の研修を受け、考査に合格する必要があります。

考査の合格は高いと言えますが、そもそも合格出来そうな行政書士のみが研修を受けている傾向が読み取れます。

合格率が高くても、合格をするにはしっかりした準備が必要な資格です。

特定行政書士の資格は全ての行政書士に必要というわけではなく、業務の性質によっては不要な場合もあります。

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